YAESU FT-817・818などQRP用の半波長終端給電アンテナ(End-Fed)の整合器を作ってみようと思います。

下図はアンテナの基本である半波長ダイポールアンテナの電流・電圧分布です。
このアンテナは中央から給電しますが、電圧分布は中央で最小に、端では最大になります。

ツェッペリンアンテナは電圧分布が最大となっている端から給電するため、電圧給電アンテナといいます。
075_01
どういうことになるかというと、半波長ダイポールアンテナの中央におけるインピーダンスは75Ωで、これなら50Ωの同軸ケーブルで給電できます。
インピーダンスを合わせるためにバランを使って整合しますが使わないという方もあります。

一方、ツェッペリンアンテナのように端から給電した場合のインピーダンスはどれくらいになるかというと、およそ5000Ωになります。

電圧給電アンテナには利点があります。
無線機からワイヤーを伸ばしたら片方をどこかに結ぶか木の枝にでも引っ掛ければ良く、設置が楽といえます。
垂直に立ててもL字型に曲げてもOKで(折り返しはNG)フルサイズのアンテナです。

50Ωの同軸ケーブルで給電するためには、これを5000Ωという高いインピーダンスに整合させる必要があり、そのための機器を自作しようというのが今回のテーマです。

インピーダンス整合(マッチング)を取る方法は
①コイルとコンデンサー
②トランス
③抵抗器
によるものがありますが、①と②の方法でやってみました。


第1章 コイルとコンデンサーによる整合

共振回路

配線図中の数値はおおよそ7.100Mhz付近に合います。

エンドフェット

コイルを巻くボビンは釣り竿を切断したものを使いました。

カーボン製のものはNGで、グラスファイバー製のものにします。
塩ビパイプを使う例がありますが高周波特性が良くないとのことです。

直径24mm

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太さ1mmのポリウレタン被服線です。

ポリウレタンでコーティングされた線であり、はだか線ではショートしてNGです。

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密巻きで28回。

中空のコイルをソレノイドといいます。
ボビンに巻かずに安定した直径と長さが保てるならボビンは要りません。

7.1Mhzで発振させるためのコイルとコンデンサーの値はLC共振計算サイトにて調べます。
コイルの直径や巻き線の太さ、巻く回数や組み合わせるコンデンサーの値がわかります。

コンデンサーとの組み合わせではコイルの値のほうを大きくすると、バンド内においてSWRが低い状態がブロード(広い)になるようです。

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インダクタンスメータで計ってみると0.01mHでした。

0.01mHをμHに換算すると10.0μHとなります。

このテスターではmHまでが限界なのですが、
μHまで計れるものは秋月電子あたりで買えると思います。

次に紹介する方法は作るのもたいへんです。

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もう少し詳細な値を知りたいので治具を自作しました。

コイルを発振させてその周波数から計算でインダクタンスを求めます。

配線図。

コイル発信器

穴あき基板に部品を配置します。


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NPNトランジスタはなるべくftが高いものが良いです。

よく使われる 2SC1815のftは80Mhzくらいですがこれで問題ありません。

今回はマルツ電波で調達した2N3904で
ftは300Mhzです。

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組み上がりました。


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0.8Vくらいから発振しました。


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VCC電圧は3Vの設計ですから乾電池でもOKです。


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オシロスコープで見ると結構きれいなサイン波で発振しています。

発振周波数は2.115Mhzと表示されました。

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周波数カウンタで計ると2.112Mhzでだいたい同じになりました。

周波数カウンタやオシロスコープが登場しますが、専用の測定器が無ければ再現性が難しい記事で申し訳ございません。

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インダクタンスは発振周波数から計算します。

計算式

1/(4π^2×f^2×C)

1/(39.47×(2.115)^2×500)  
=1/(39.47×4.473×500)
=1.132

計算結果からコイルのインダクタンスは11.32μHと判明しました。

こんなことをしなくても、ここにあるサイトの計算式にあてはめれば良いです。
私の試験ではこれと全く同じとなり、単に確かめたに過ぎない結果となりました。
測定器など一切必要ありません。

https://crystal-set.com/calc/index.htm

有難いサイトです。

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コイルに熱収縮チューブを被せました。


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チューブを被せたことによりインダクタンスは変化するでしょうか。


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ほとんど変化はありませんでした。


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プラスチックケースに納めます。


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コンデンサーにはポリバリコンを使いました。

容量260pのAMラジオ用です。
耐圧は100Vくらいなら耐えると思います。

QRPの5Wでも200Vくらいかかるので耐圧の高いバリコンを使うべきですが、5Wではショートしませんでした。

ポリバリコンで静電容量を確認したら、同じ容量となるように耐圧が1Kvくらいのセラミックコンデンサーと差換える方法もあります。
例えば、上記の配線図のようにコンデンサーが44pになったら22pを並列で使うなど丁度良いペアで組み合わせて下さい。
それなら50WでもOKとなりますが高周波電圧は700V強くらいになります。
電流値は高くないのですが、それでもピリピリするくらいは感電します。

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Mコネクタを取り付け。


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ロングワイヤーを接続するターミナル。


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ケース内の状況です。

配線はなるべくもっと短くなるように工夫して下さい。

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SWRが最小になるようにバリコンを調整すればOKです。

一度調整すれば頻繁に調整する必要はなく、バンド内のSWRはブロードの状態です。

アンテナチューナーとして動作します。

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試験的使用では。

7.1Mhzの1/2λ ×短縮率0.95

((300÷7.1)÷2)×0.95=20.07

20.3mのビニール被服線にて動作を確認しました。

7Mhz  5W  SSB

アンテナの地上高による大地の影響が大きいです。

丘の上。
地上高1mくらいでは当たり前ですがSWRは2.0くらいと高いまま、それ以上は落ちませんでした。

川河口。
こちらは地下水があるせいか地上高1mでもSWR1.1に落ちました。
2から7エリア間  レポート55


●最終進化しました。

エアバリコン

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羽根のギャップは1mmくらいです。

1kVには耐えると思います。

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容量は60pFです。


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移動運用にて50WでもOKです。


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第2章 トランスによる整合


インピーダンス50Ωを5000Ωに整合させるための配線図です。


エンドフェットチューナー2

トロイダルコアの選択です。

アミドン社カーボニル鉄粉コアにおける周波数特性です。


toroidcore


上記の表によれば7Mhzの周波数に使えるのは、赤色、黄色、黒色が選択候補となります。

周波数特性3~50Mhzの黄色のコアを使いました。

規格はT68-6です。

フェライトコアを使う場合、FT××ー43 
××の部分はコアの大きさで任意、43の部分は43材という意味で43となっているものを使ってください。

Mコネクタとの大きさ比較です。

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太さ1mmのポリウレタン線。


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トランス2次側はコアの中心を線が28回通るように巻きます。

1mmの銅線は太過ぎて28回巻いたところ、巻き始めを通り過ぎて一部が重なり巻きになってしまいました。

このような重なり巻きになるのはNGです。

トロイダルコア活用百科によると低周波では良くても高周波での重なりはアウトで、単層巻きにすることとなっています。
足同士が近くなるのも気をつけることと記載されています。

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銅線の太さを0.5mmに変更して28回巻き。

1次側は3回巻きでコアの中心を銅線が3回通るように巻きます。
こちらは太さ1mmの銅線にしました。

巻き数の対比は1対9で、3回巻き対28回巻きとします。

巻き数とインピーダンスの関係。

1次と2次のインピーダンス比は巻き数の2条に比例します。

1次(1):2次(9)
巻き数の2乗
9^2=81

これによりインピーダンス81倍または1/81の変換が可能となり、1次側50Ωに対する2次側4050Ωとの変換ができるようになります。

1次と2次の巻き方向は同じとしました。

1次側は2次側の上に重ね巻きにして結合を密にしないと性能が落ちます。
重ねて巻かないと動作しないという製作例も見られます。

コアに露出したところがないよう磁束を閉じ込め全体に広がるように巻くのが基本です。
このように偏った巻き方は良くありませんが、この場合は磁束が強い場所を選びます。

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Mコネクタ


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ポリバリコン260p

耐圧の記載もなく、どのくらいの電圧に耐えるのかわかりません。

大気中における絶縁距離は1mm 1kVですが、見た目では100Vくらいかも知れません。

高周波電圧は5W・50Ωだとして
√(PR)・√2
√(5・50)・1.414=22V

5W・4050Ωでは201V

エアバリコンの誘電体は空気ですが、ポリバリコンは誘電体に絶縁と誘電率が高いポリエチレンを使うことにより小型化を実現、携帯ラジオに搭載されました。

5Wではショートしませんでした。

のちに、50Wで送信してみましたがポリエチレンが溶けることもなく全く問題ありませんでした。
ポリバリコンの耐圧は言われているほど低くないかも知れません。

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アンテナワイヤーターミナル。


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それぞれ取付けたら配線します。


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トランスの1次側が無線機側になるよう配線します。


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ワイヤーアンテナを接続するターミナル。


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ポリバリコンを取り付けます。


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ダイヤルの取り付け。


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インジケーター部分の作成。

マッチングの状態が見えるようにしてみました。

これから先のインジケーター部分が不用ならば、下図のようにトロイダルコアとバリコンだけでOKです。インジケーター部分だけを削除した配線図です。

エンドフェットチューナー検波なし回路

ラジケータ。

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白色えんぴつでケガキ線をひきます。


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ピンバイスでざっくりと穴を開け。


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ブリッジ部分を彫刻刀とハンマーで叩いて落とします。


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ヤスリで削って仕上げます。


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グルーガンでラジケータを固定しました。


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50kΩの抵抗。

ラジケータの感度調整用です。

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ケースに取り付けました。


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ラジケータを振らせるための整流回路はラグ板に組みました。


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ケースに納めて配線します。


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整流にはゲルマニウムダイオードの1N60を使っていますが、無ければシリコンダイオードの
1N4148でもOKです。

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1N4148の例


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この部分は配線図にあります。

非接触にして、ここからインジケータ用の高周波エネルギーを取り込んでいます。

電圧が高いところなので接触させるとラジケータの調整が効かず振り切ったままになります。

感度が足りない場合は、0.1μF、耐圧1Kvくらいのセラミックコンデンサーを介して接続してください。

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ac9e5ed3

ラジケータの端子間に1000pのセラコンを付けます。


IMGP9186

部品が干渉しないように確認しながらふたを閉めて完成です。


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ワイヤー接続端子にアンテナに見立てた4.7kΩの抵抗を付けて送信テストです。


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ポリバリコンを回してSWRが最小になる点に調整します。


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SWR計無しでもこのインジケータでメーターが最大になればベストマッチング状態です。

キャリアの出るCW、AM、FMで送信して調整すると楽、その後SSBで運用して下さい。

メーターの触れ具合はボリュームで調整が可能です。

オーバーするようなら50kΩを100kΩにするか、抵抗を直列に入れて足してください。

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昇圧トランスですので電圧は昇圧されて高インピーダンスに整合しますが、電力はそのままなので送信パワーが上がるわけではありません。

トロイダルコアを大型にして巻き線を太くし、高耐圧のエアバリコンを使えば10W以上でもOKです。

先記事のLC共振式と異なり共振周波数は関係ありませんので、1/2λのアンテナであれば使用するトロイダルコアの周波数特性が許す限り何Mhzであっても電圧給電アンテナはこの配線で整合できます。
7Mhzでのアンテナ線の長さは、短縮率を考慮すると20.3mくらいです。
28Mhzならば、1/2λの波長である5mのワイヤーを使います。

トランス式のこの機器の性能には惚れました。

SWRがストンと落ちます。

試験的使用では。

20.3mのビニール被服線使用。
7Mhz  5W  SSB

丘の上。
地上高1mにおいて問題なくSWRが落ちます。
2から6エリア間  レポート59

川河口。
地上高1mにてSWRは1.0に落とせます。
2から6エリア間  レポート59
2から7エリア間  レポート59

使用感は。

私のように地上高1mでの劣悪な環境ではトランス式のほうがGOODな感じですが、受信の音はコイルコンデンサー式のほうがクリアです。
これはLC共振フィルターにより、目的の周波数のみを通過させる効果から来るクリアさでしょう。

共振したフルサイズアンテナの性能は見事なものがあります。


●最終進化しました。

タイトエアバリコン

容量200pF

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大型のトロイダルコアを使い、


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ラインを太く


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100mAの電流計


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置き型でも、吊り型でも使えるようにしました。


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50W運用でもOKですが、感電対策を十分にしてください。

ダイヤルはプラスチック製のものを使用するなど、送信中に触れるダイヤルやその周辺のネジ類に至るまで、触る所は絶縁・低圧側になるように考慮しないと感電します。

アルミケースの傷防止用保護ビニールは取らないほうが良いでしょう。

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